1年を振り返って
この1年で、世界は再び動き始めました。私も昨年4月以降海外出張を再開し、国内外累計で63日、約2カ月間オフィスを離れ、さまざまな方とリアルな交流を増やすことができました。その中で強く感じたのは、世界3位の経済規模を有しアジアから唯一G7へ参加する日本への期待と、 G-SIFIsでありアジアを代表する金融機関としてのMUFGへの期待の大きさでした。そして、何と言っても、リアルな出会いがもたらす大きなエネルギーと脳の活性化を実感しました。
実は、昨年の私の隠れたチャレンジは「英語を使うこと」でした。これまでもさまざまな場面で英語は使ってきましたが、昨年はさらに積極的に海外のCEOたちとも面談し、スピーチもこなしながら、会合やディナー等へも参加することとしました。世界の潮流変化を肌で感じ、時代を読み解きたいと考えたからです。母国語以外でのコミュニケーションはそれ自体がハードルですが、下手な英語でも一生懸命に話せば耳を傾けてくれます。コロナ禍の中、これまでも彼ら・彼女らとは、オンライン面談をフル活用して交流を拡大させてきましたが、CEOたちとリアルに顔を合わせることで、グッと距離を縮めることができました。デジタル(面談)とリアル(面談)を上手に組み合わせることで、爆発的な効果が期待できることも体感しました。
リアルな交流を持つ中で、特に有益だと感じたのは、スキマ時間です。次の会議の場所までの移動や、コーヒーブレイクでの立ち話、ランチやディナーでの意見交換。対面だからこそ生まれるフランクな会話の中から、MUFGの経営戦略を考える上で参考になる多くの気づき、そして新たな発想を得ました。また、CEO同士の何気ない会話からグローバルなコンセンサスが生まれていることも大きな発見でした。
CEO同士の共通の話題は、やはり、「デジタル」、「グリーン」そして「働き方や価値観の変化」への対応です。こうした地球規模の課題の解決には日本を含めたグローバルな取り組みが必須となります。その中で、例えば気候変動問題では、MUFGはどう考えているのか、アジアや日本はどうなのか、と意見を求められます。私から相手の話を聞きたいと打診すると、ぜひMUFGと一緒に取り組みたいという話が出てきます。デジタル分野でも、国内外のスタートアップの方々とコミュニケーションを重ねてきましたが、MUFGに対する高い関心や期待を感じます。
グローバルに強固なネットワークを構築しているMUFGには、グローバルなコンセンサス作りにおいて果たすべき役割がある、と私は考えています。それだけ、世界経済やグローバル社会の課題解決への我々の責任は重いということです。
まずは、今日の世界経済やグローバル社会における課題とは何か、世界はどこへ向かっているのか、そこから始めたいと思います。
環境・課題認識
2022年は、歴史的な出来事が相次いで発生した激動の1年でした。コロナ禍の影響が残る中、春先には、ロシアのウクライナ侵攻が世界に大きな衝撃を与えました。以前から、米中対立やコロナ禍が自由貿易に揺らぎをもたらしていましたが、この侵攻が経済の分断やサプライチェーンに大きな混乱を引き起こしています。また、加速したインフレに対応するため、欧米では金融政策が180度転換し、市場金利は急上昇、為替市場でも記録的な円安が進みました。さらに、2023年に入ってからは、一部の欧米銀で信用不安が表面化し、経営破綻や再編が発生しています。私たちのビジネスが、これほど大きな環境変化に見舞われた年は、近年、記憶にありません。
世界は今、二つの大きなトレンドの中にあると私は考えています。
一つは「正常化」の波です。3年の長きにわたる闘いを経てコロナ禍は収束し、社会・経済活動はようやく正常化しつつあります。足元の高インフレやそれに対応した大幅な金利引締めがどの程度続くか不透明な部分は残りますが、少なくとも、欧米先進国は金利が水没した状態から、金利の存在する正常な世界に回帰しつつあります。日本でも過度な低金利の副作用を点検する動きがあります。長い金融緩和の結果生じた歪みを解消する動きの中で、急激な金利上昇や欧米銀の破綻が起きましたが、大きな意味では「正常化」の周期に向かっています。ある意味で以前の状態に戻るわけです。
一方で、もう一つの大きなトレンド、以前とは全く違う世界に向かう、「デジタル」、「グリーン」、「働き方や価値観の変化」という大きな潮流変化が起きています。正常化の流れの中では、既存ビジネスの再評価や過去への回帰が起きますが、ただし、大きな潮流変化を考えれば改革は緩めてはいけない。変化はむしろ加速度的に進展しています。例えば、デジタルはこれまでも「プロセスや分析のDX(注1)」により人々の行動や生活を大きく変化させてきましたが、足元ではChatGPTなどの生成AIの出現により、人の思考や言語までもデジタル化する「思考のDX」へと次元を変える動きを見せています。人とデジタルの役割分担が再考され、共存共栄の形が模索されていく中で、私たち、人間の行動は抜本的に変わっていく可能性があります。
また、地球規模の課題である「グリーン」などESGへの取り組みも本格化します。既に米国のインフレ削減法、EUのグリーン・ディール政策に基づく産業計画、そして日本のGX(注2)実現に向けた基本方針など、国家を挙げた産業政策が相次いで打ち出され、官民双方のさまざまなステークホルダーの投資が本格化するタイミングが近づいています。MUFGにおいても、デジタルやESG抜きの戦略はあり得ないということです。
こうした変化はMUFGにとって大きなチャンスです。MUFGには、銀行・信託・証券をはじめグループ各社が日本そしてグローバルに築いてきた、圧倒的な顧客基盤があります。長いお取引の歴史の中で、日々お客さまの経営課題に向き合ってきました。お客さまが変革に向けて動き出そうとしている今、我々は信頼・信用をお客さまから寄せていただき、まずはじめにご相談をいただける存在になり得ると考えています。いわば、課題解決の「ホームドクター」のような存在であり続けたいということです。その上で、MUFGのグループ総合力とグローバルネットワークをフルに発揮し、お客さまの成長を実現し、我々自身も成長したいと考えています。
(注1) デジタルトランスフォーメーション
(注2) グリーントランスフォーメーション
2022年度の振り返りと2023年度の取り組み/見通し
2022年度は、「挑戦と変革の3年間」を掲げる中期経営計画(以下、中計)の2年目として、戦略の3本柱として掲げた「企業変革」、「成長戦略」、「構造改革」を着実に進めました。前年度に続き、「成長戦略」と「構造改革」が大きく進展し、財務面での成果に繋がっています。
グループ総合力を活かしたウェルスマネジメントビジネスの進展や、国内大企業や海外機関投資家向けのリスクテイクの強化、規律ある採算管理の徹底による国内外の法人向け貸出利ざやの改善等により、顧客部門の営業純益が前年度比で大幅に増加しました。経費は為替等の影響を除いた実質ベースでは前年度比で減少、リスクアセットも確りコントロールできています。親会社株主純利益は1兆1,164億円と、中計で掲げた「安定的に1兆円以上の利益計上」という目標を2年連続で前倒し達成しました。中計の最大のコミットメントであるROEは、7.03%と前年度対比で低下しましたが、7.5%の目標達成に向けて着実に進展しています。
また、事業ポートフォリオの見直しも進展しました。昨年12月にMUFGユニオンバンクの売却が完了し、米国のリテールビジネスから撤退しました。但し、米国は強いマーケットであり、引き続き当社の海外事業の5割超を占める重要な地域です。米州事業の収益の大半を稼いできた法人取引を今後さらに強化し、モルガン・スタンレーとの強力なパートナーシップも梃子にリスクテイクを増やし、米州ビジネスを成長させていく方針です。また、これまで米州のGCIB事業を大きく成長させてきたKevin Cronin氏にEMEAのGCIB事業も担当してもらうことで、シナジーの追求や戦略高度化を進めていきます。
稼ぐ力を強化するために、新たなビジネスにもチャレンジしています。MUFGが第2のマザーマーケットと位置付けるアジアでは、アジアの成長を取り込むための第1ステージとして2012年から2019年にかけて商業銀行のフットプリントを築き上げてきました。そこに第2ステージとして、デジタル金融ニーズを取り込むための事業を拡大させています。2020年のGrabへの投資に加え、直近では、POSローン(注3)のHome CreditやBNPL(注4)のAkulaku、インドのコンシューマー向けデジタルレンディングのDMI Finance へと面を広げています。従来の銀行口座でのタッチポイントに加え、買い物の場面などさまざまな生活シーンにおいて顧客と接点を持てるようになります。アジアの成長を余すところなく面で捉える作戦です。Grabとの協働の経験から始まり、MUFGやクルンシィ等のパートナーバンクのメンバーが知見を蓄積してきたことで、こうした出資案件の見極めもできるようになってきました。
そして、モルガン・スタンレーとの戦略的提携も、次なるステージ「アライアンス2.0」へと深化させていきます。2023年7月に、三菱UFJ銀行とモルガン・スタンレーは外国為替のトレーディング業務において新たに協働に取り組むことで基本合意しました。モルガン・スタンレーの高度な外国為替取引のプラットフォームを活用することで、三菱UFJ銀行の価格提供力の更なる強化を図り、お客さまにより良いサービスを提供します。また、本邦JV2社(注5)は、機関投資家向け日本株ビジネスにおけるリサーチ及びセールス領域の機能統合を進め、 JV一体となって国内トップをめざします。
2023年度は、中計最終年になります。足元では、欧米の高金利や一部の海外金融機関の破綻等、難しいビジネス環境ではありますが、これまでの取り組みでMUFGのビジネスモデルは格段に強靭なものとなっています。過去2回の中計は目標未達でしたが、今回こそは、ROE7.5%と親会社株主純利益で1兆円以上という目標を、是が非でも成し遂げたいと考えています。
目標達成に向けた戦略の詳細は別ページに譲り、以下では「企業変革」として掲げた「デジタルトランスフォーメーション」、「環境・社会課題解決への貢献」、「カルチャー改革」について、その進捗と課題をご説明します。
(注3) Point of Saleローンの略。耐久財(自動車や家電製品など)の販売店などでの商品購入時に提供する割賦ローン
(注4) Buy Now Pay Laterの略。商品の購入代金を後日支払う決済方法
(注5) 2010年に、MUFGとモルガン・スタンレーが日本における証券業務を統合し、共同出資により設立した、証券会社2社(三菱UFJモルガン・スタンレー証券およびモルガン・スタンレーMUFG証券)
デジタルトランスフォーメーション(DX)
2021年4月にデジタルサービス事業本部を立ち上げ、マスリテール・マス法人領域の業務推進と、社内DXを一体的に推進してきました。
マス領域の業務推進では、来店者数の減少やデジタルチャネルへのシフトに合わせて店舗統廃合を進め、オンラインチャネルを充実させてきました。顧客利便性向上と経費削減を両立することで、業務の強靭性を高めています。店舗統廃合フェーズは2022年度で終了し、今後は、顧客基盤・取引基盤の拡充に力を入れていきます。昨年12月からはNTTドコモと共にデジタル口座サービス「dスマートバンク」を開始しました。NTTドコモの携帯電話ユーザー向けソフトウェアに、我々の銀行口座機能をAPI(注6)で提供しています。ユーザーからMUFGは見えませんが、黒子として金融のサービスを提供するBaaS(Banking as a Service)という取り組みになります。NTTドコモの顧客接点を通じて、これまで口座開設が比較的少なかった3大都市圏以外での新規口座獲得が進展しています。銀行口座だけでなく、信託・証券・ニコスが持つ決済や資産運用の機能もBaaSとして外部事業者へ提供することで、お客さまとの接点を多様化できます。このほか、駅やオフィスなどでオンライン運用相談を受けられる相談ブースの設置など新規出店の検討や、銀信証一体店舗の強化により、お客さまとのタッチポイントを拡大していきます。
社内DXの取り組みでは、銀行の国内全ての営業店で、営業活動の状況や資金動向を可視化した「営業店ダッシュボード」の運用を開始しました。お客さまと現物のやりとりを記録する「取次票」も電子化しています。お客さまにより良いサービスをお届けするために、より多くの時間を傾けられるよう、営業拠点における業務効率化を実現していきます。
また、新たな事業として、AIを活用したスタートアップ向けファイナンス支援も進めています。アジアのスタートアップ向け融資に取り組むMars Growth Capitalはファンド組成以来順調に残高を積み上げており、1月にファンド総額を7.5億米ドルに増額しました。さらに、これまで海外で培ってきた知見を国内のベンチャー企業の育成につなげるべく、今般、日本にもその業務を拡大させることを決めました。「Mars Japan」の設立です。MUFGの審査のプロたちも、スタートアップ向け融資という新しい領域で、AI融資審査モデルの改良に取り組んでおり、大きな飛躍を期待しています。
加えて、メタバース、Web3といった中長期的に大きな可能性を有する新しい領域にも積極的に取り組んでいます。メタバース領域では、2023年2月に産業メタバースやデジタルコンテンツの共通基盤(オープン・メタバース)構築に向け、国内金融機関・企業計10社で基本合意しました。同年5月にはメタバース空間での決済・認証といったインフラ機能開発に向けた戦略出資も実施しています。社会構造に大きな変化をもたらす可能性を持つWeb3領域では、Animoca Brands等との提携を通じて、企業のコンテンツの価値化や安心・安全なNFT環境の整備等による日本企業の競争力向上への貢献をめざしています。
(注6) Application Programming Interfaceの略。ソフトウェア間でやりとりする際の仕様
環境・社会課題解決への貢献
最初にも述べたとおり、世界が直面する環境・社会課題解決への貢献は、私たちの重要な責務です。アジアを代表する金融機関として、日本を含むアジアのカーボンニュートラルを牽引していくことが、MUFGには期待されています。
カーボンニュートラルに向けて金融機関が取り組むべきことは、お客さまとのエンゲージメントとトランジションファイナンスの推進、そして国際的なルール作りの三つだと考えています。
地理的な特性に加え、GHG排出の原因となる産業の構造や、エネルギー構成の違いから、欧米と日本では、カーボンニュートラル達成に向けた道筋が異なります。その道筋について、社会の皆さまから理解を得ながら、責任あるトランジションを進めることが重要です。そうした思いから、昨年は、お客さまと共に「MUFGトランジション白書」を発行し、欧米の政策関係者とも個別に意見交換を行いました。今年も、日本のカーボンニュートラルにおいて、金融支援が必要となる技術をリスト化した「MUFGトランジション白書2.0」を発行する予定です。
また、世界で100以上の銀行が加盟するNZBA(注7)やアジアにおけるトランジションファイナンス促進をめざして発足したATFSG(注8)において、MUFGがトランジションファイナンスの枠組み策定の議論を牽引しています。インドネシアでのJETP(注9)では、欧米銀行5行と共に発足メンバーとして参画しました。
ダイベストメントではなく、エンゲージメントを通じて、実体経済にとって現実的な排出量削減に努めることこそが、ネットゼロの実現に必要だと考えています。外部パートナーとも連携し、政策や戦略に沿ったソリューションを提供することで、国内外約1,500社のお客さまとエンゲージメントを行っています。ファイナンスを通じたトランジション支援実績も着実に積み上がっています。
昨年10月、社外から、サステナビリティ分野に幅広い知見と深い課題認識を持つ銭谷美幸氏をCSuOとして採用しました。専門的な知見を持つ多様なMUFGのメンバーが、それぞれの分野で活動していきます。世界に向けて主体的に意見発信を行うリーディングカンパニーとして責務を果たしていきたいと考えています。
(注7) Net-Zero Banking Alliance 国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が2021年4月に設立した、2050年までの投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量ネットゼロにコミットする銀行のイニシアティブ
(注8) Asia Transition Finance Study Group アジアにおけるトランジションファイナンス促進をめざして発足した民間金融機関主導のイニシアティブ
(注9) Just Energy Transition Partnership 高排出インフラの早期退役の加速化と、再生可能エネルギ―および関連インフラへの投資のための支援を実施するG7主導のパートナーシップ
カルチャー改革
最近はありがたいことに、社内外から「MUFGは変わった」という声が聞こえてくるようになりました。私から見えているところでも、意思決定のスピードは速くなっていると感じます。
パーパスを実践するための、社員の自発的・自律的な挑戦が増えてきているのも喜ばしいことです。昨年立ち上げた「MUFG Way Boostプロジェクト」は、パーパスを体現する社員が起点となり、他の社員にパーパスの自分ごと化について伝播する取り組みです。国内外のグループ社員がパーパスに共感し、それぞれの想いを持って働いていることが、「MUFG Way体現者ブック」でも表現されています。また、Spark Xという新規ビジネス創出プログラムでは、昨年11月に最終審査会を行いました。私も審査員として参加しましたが、MUFGの既存領域に捉われない自由な発想で、「世の中を変えたい!」という社員の熱い思いに圧倒されました。審査の結果、見送りとなったアイデアの応募社員も、このプログラムを通じて、仮説と検証を繰り返し、新しいことに挑戦することの重要性を実感したようです。
一方、大きい組織なだけに、「いやいや、全然変わっていません」という声も沢山聞こえてきます。スピードの面でも課題が多くあります。まだまだ当社のカルチャーの「芯」は固いままだと思います。芯まで届かないと本当の意味で「変わった」とは言えません。まだ2合目です。この変化の時代、カルチャー改革が進まないと生き残れない。危機感は非常に強いです。粘り強く取り組んでいきます。
今年度は、これまでの活動に加え、スピード改革に力を入れます。皆がお客さまとの時間や挑戦する時間をもっと持てるように、手続やプロセスのシンプル化を進めます。コンセンサスの取り方や会議のやり方で、皆が無駄だと思っていること、ここまでやる必要があるのか疑問を持ちながら念のためにやっていることがまだまだあります。社員がワクワク感を持って楽しく働く状態ができれば、活動量は現在の数倍にはなるはずです。マネジメントで徹底的に議論をして改革を進めていきます。
人的資本への投資
MUFGでは、社員一人ひとりが活き活きと活躍し、お客さまや社会に貢献することをめざしています。その観点で、人材は最も重要な経営資本の一つです。今年度は賃上げも実施し、社員の頑張りに応えるとともに、教育研修費の増額や社内研修の充実等により、社員のスキルアップも促しています。デジタル中核人材を育成する「DEEP研修」に加え、その候補を発掘・育成する研修プログラムも開始し、約500人が参加しました。
また、お客さまや社会へ期待を超える価値を提供するために、プロ人材の育成・確保も進めています。かつては新卒一括採用が大半でしたが、今ではキャリア採用が約4割を占めています。新卒者のコース別採用も含めると、約6割が専門的な人材となっています。
多様な人材に活躍してもらうために、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)も推進しています。当社の社員のうち、約6割は外国人です。2023年度よりグローバルで一体となりDEIを推進する体制を立ち上げました。社員一人ひとりが多様性を認め合い、持ち味を活かして、自由闊達に活動できる風土を作っていきたいと思います。
女性マネジメント比率の向上もグローバル共通の重要課題として取り組んでいます。日本では前年度に続いて目標値を2%引き上げました。但し、全く十分なレベルではありません。役員による経営層の女性社員へのメンタリングプログラムや全部室店長向けのダイバーシティ・マネジメント・フォーラムなど、女性のキャリア形成やスキルアップを強力に支援していきます。
資本政策・株主還元
社長に就任した2020年4月、当社の株価は1株400円でした。この3年間で倍以上の水準まで株価は回復してきています。しかし、PBRがいまだに1倍未満となっていることは、経営として許されない状態だと考えています。
株主からお預かりした資本を確りと成長させることが必須との考えのもと、今中計ではROEを経営の中心に据えました。資本の健全性を維持した上で、先に述べたような将来の成長のための資本活用も行いつつ、株主還元では、着実な利益成長を背景に、配当を3年間で60%引き上げました。また2022年度は自己株式取得も4,500億円実施しました。2023年度も引き続き、規律ある資本運営を行いながら、ROE向上に努めます。これに加えて、確りとした成長ストーリーを見せることも大切だと考えています。
長期的にめざす姿―「分断」の時代において、「つなぐ」存在に
最後に、長期ビジョンについて触れたいと思います。
私たちは今、かつてないほど「分断」の時代の中にいます。米中覇権争いやロシア・ウクライナ情勢などの国家間の分断、貿易摩擦やフレンド・ショアリングなど、グローバル化の揺り戻しが生じ、経済の分断も強まりつつあります。パンデミックでリアルなコミュニケーションが制限され、インフレにより経済格差が一層顕著になるなど、国民の分断も進んでいます。
一方、急速に発展するデジタル技術によって、個々人や会社同士は、場所を超えて瞬時につながることができるようになりました。これは、世界が分断されていることと一見矛盾するのですが、同じ価値観を持つ者同士が物理的な距離を超えて強くつながることができる時代でもあるということです。
では、「世界が進むチカラになる。」というパーパスを掲げるMUFGは、こうした時代にどう貢献していけるのでしょうか。
私は、金融にはさまざまなものを「つなぐ」力があると考えています。例えば、クロスボーダーも含む、遠隔地を「つなぐ」資金の決済。ファイナンスを必要とする事業者と、余資を運用する預金者や投資家を「つなぐ」金融仲介。先進国と新興国を跨いだM&Aや投資銀行のソリューション。親世代と子や孫の将来世代、現役時代の貯蓄と老後の生活を「つなぐ」資産運用や承継。グローバルにMUFGが提供するさまざまな金融サービスは、いずれも、何かをつなぐ、つなげる機能を備えています。
そして、私たちがつなぐものは、かけがえのない金融資産や事業に欠かせない資金、個人や会社のデータです。
例えば、メタバース上でつなぐ機能を構築し、安心・安全にご利用いただける預金口座やウォレットを起点に、リアルとデジタル双方でタッチポイントを増やす。そこに、グループ各社で磨き上げた金融・非金融のサービスを組み合わせて提供し、他の事業者のエコシステムや消費者の日常に溶け込んでいく。
また、強固なバランスシートに裏打ちされた安定した決済と信用創造によるファイナンス力。これらを梃子に、エンゲージメントとリスクテイク、多様なソリューションを通じて、デジタル化や脱炭素など、お客さまの課題解決を後押ししていく。事業共創投資でパートナーと共にリスクを取り、ビジネスを立ち上げる。
これらのつなぎ手やつなぐ場、言い換えるとプラットフォーマーとして力を発揮するために最も必要なものは、高い信用、信頼と安定性です。このことは、ステーブルコインへの規制強化や大手暗号資産交換業者の破綻、さらには、今年に入り表面化した欧米銀の信用不安や破綻の事例、そしてAIやGAFAM(注10)への規制の議論からも、改めて認識できます。
MUFGの最大の財産は、多様かつ圧倒的なお客さまの基盤と、グループ総合力とグローバルネットワーク、社会からお寄せいただく高い信頼・信用です。分断の時代に、信頼・信用を活かしながら、金融とデジタルの力で世界をつなぐ架け橋、プラットフォーマーになることができる、ならなければいけないと考えています。
(注10) 米国の巨大ハイテク企業5社(アルファベット、アップル、メタプラットフォームズ、アマゾン・ドットコム、マイクロソフト)の総称
金融を超える、自分を超える
私は毎年お正月に、今年の一字を書き初めにしています。今年は、「超」を選びました。この一字には、私なりのパーパスの自分ごと化への意気込みを込めています。
2年前に制定したパーパスでめざしたのは、金融分野に限らず、非金融の分野も含めた社会課題に貢献していくということでした。まさに、今、世界が分断しつつある中だからこそ、MUFGには、多様なステークホルダーとのネットワークを活かし、共創し、つなぐ存在となること、即ち「世界が進むチカラになる。」を体現することが求められています。
そのためには、金融という枠、これまでの事業モデル、信頼できるけど堅苦しいというMUFGのイメージなど、今までのMUFGを「超」えなければなりません。社員一人ひとりにも、MUFGを活躍の舞台として、今までの自分の枠を「超」えて、新境地を拓いてほしいと思います。私たちはさらなる飛躍に向けて、挑戦していきます。