出資先同士の横連携でWin-Winに
(デジタルサービス企画部 グローバルデジタル戦略Gr 坂本龍一)
Q.はじめに、MODEプロジェクトが始まった経緯や目的を教えてください。
坂本氏
昨今のデジタル化の伸展から、伝統的なビジネスモデルだけではお客様のニーズに適切に応えられない領域が増えてきていると考え、MUFGではデジタル関連出資を進めてきました。これまでは、出資先とMUFG間の縦のコミュニケーションが中心でした。しかし今後は出資先同士の横連携を促し、出資先企業がそれぞれの知見を共有・展開することで、自社のビジネスを強化したり、他国での事業に繋げられたりするなど、さまざまな相乗効果が実現できる場を作りたいと考え、MODEプロジェクトをスタートしました。
将来的にはMUFGが出資していないフィンテック企業にも門戸を開き、こういった場に参加いただきたいです。多くの企業と対話し、新たなビジネスに繋げたり、業務の改善・効率化に繋げられたりといったメリットを感じてもらい、自然とテック企業が集まってくる場にできればと思います。これはMUFGにとっても、この場から新たに生まれる・共有されるビジネスモデルや最新のトレンド情報を掴める、今後出資すべきポテンシャルを秘めた企業を発見できるといったメリットがあります。
Q.MFF・SFFの具体的な内容を教えてください。
田中氏
MFFは、MUFGファミリーが集まったクローズドなイベントです。当日は約120名の方にご参加いただきました。一方SFFは、シンガポール金融庁やシンガポール銀行協会等が中心となって開催される世界最大級のフィンテックカンファレンスで、3日間で約5,000名の方がご来場されました。
坂本氏
MFFでは、DS企でのAI Credit Model Development Team(以下、ACMD-T 詳細は後述)という取り組みの一環として、「MUFGテックセッション」を実施しました。参加企業の中でも特にテックの専門家の方々にお声掛けし、我々の取り組みや、デジタルレンディングに関する知見を共有する新たな枠組みの立ち上げについてご説明しました。
続いて、MFFの本編として出資先企業にお集まりいただき、簡単な自己紹介ピッチを実施しました。また、外部のGoogle社やTemasek社(※1)にもご参加いただき、AI活用の安全性に関する取り組みのパネルディスカッションを行いました。
最後に、参加者同士の情報交換や名刺交換ができるように、立食形式のディナーセッションを行いました。MUFG、グループ会社、パートナーバンクや出資先など、すべての参加者がお互いを理解するきっかけの場となりました。
翌日から3日間に渡って開催されたSFFには、MUFGと、アユタヤ銀行(※2)のCVC(※3)であるクルンシィ・フィノベート、MUFGのCVCである三菱UFJイノベーション・パートナーズ(以下、MUIP)の3社で共同出展しました。さまざまな成長ステージにあるフィンテックプレイヤーに、「インベスターとしてのMUFG」というイメージを持って頂けるようなコンテンツを提供し、アジアでのMUFGの取り組みをしっかりとアピールできました。
「MUFGに出資してもらいたい」という声や、「MUFGにこういう商品を提供してみたい」といったお話など、さまざまな相談が舞い込み、多くの学びがありました。
※1…テマセク社:シンガポール政府が所有する投資ファンドであり、世界で最も評価の高い投資会社の一つ。
※2…2013年12月にMUFGの連結対象子会社となったタイの大手銀行。現地呼称は Krungsri(クルンシィ)。
※3…コーポレート・ベンチャー・キャピタル:事業会社が自己資金でファンドを組成して、未上場のベンチャー企業などに出資や支援を行う活動組織のこと。
Q.MFF・SFFはそれぞれどういった反響がありましたか。
田中氏
イベント参加者にアンケートを実施し、MMFでは「とても良いイベントだった」という声が多くありました。また、日本国内からはMUFGが出資している企業のほか、消費者金融業の方にもご参加いただき「新たに繋がる機会を得られたという意味で非常に有意義だった」というお声をいただきました。
SFFでは、MUFGをあまり知らない方々にもご来場いただきました。そのため「MUFGがアジアのフィンテック企業に出資できる体制が整っていることを初めて知った」という反応もあれば、「パートナーバンクやMUFGの出資先企業のことをもっと知りたい」というお声もいただきました。 MUFGをより広く認知してもらえる良い機会になったと思います。
必要なタイミングで、必要な人に、必要なお金を届けるために
(グローバルコマーシャルバンキング企画部 企画Gr 松山 翔太朗)
Q.MODEプロジェクトにはどのような想いでご参加されていますか。
松山氏
MODEプロジェクトは、伝統的な商業銀行や、今まで銀行取引の経験がなかったお客様への貸出が行えるフィンテック企業など、さまざまなプレイヤーが集まって横の繋がりを作ることで、アジア金融市場の成長に貢献できる取り組みです。特に、フィンテック企業の成長を中心とした東南アジアのマーケットの実情に触れられることが面白いと思っています。たとえば、日本では消費者金融に対してネガティブなイメージを持たれている方が多い傾向にあるのに対し、東南アジアでは比較的ポジティブに捉えている方が多いという実態があります。消費者金融に対する認識一つを取っても、日本とは大きな違いがあり、非常に興味深いです。
また、MODEプロジェクトはMUFGならではの取り組みだと思います。さまざまな金融事業者に出資し、出資先の横の繋がりをつくることができるのは、MUFGの財務体力やこれまでの知見の蓄積の賜物です。こうした新しい大きな取り組みに携わることができ、今後が楽しみです。
田中氏
この取り組みは、MUFGが持っていない技術を持つノンバンク(預金取扱金融機関ではない金融会社)のフィンテック企業に出資して、新しいシナジーを生み出していくものです。私たち自身にとっても新しい取り組みで、「こんな技術を持っている企業があったんだ」「こんなこともできるんだ」という発見もありました。
また、出資先企業にとっても、現地当局への対応など、MUFGが現地で銀行業を営んできた経験がプラスに働くため、両者にとって有益な関係を築くことも一つの意義だと思います。新しいと同時に意義深いと思いながらこのプロジェクトに取り組んでいます。
前田氏
イベントを終えて、参加者の方々から「よかった」「来年も続けてほしい」などの声をいただきました。また実際に「A社とB社が繋がった」「C社と繋がりたい」といったコミュニケーションが発生している事実に、このイベントがビジネスに繋がる機会になっていることを実感しました。今後もMUFGが出資している企業だけでなく、他のスタートアップ企業にも活かしてもらえるイベントにしていきたいです。
世の中にはスタートアップを支援する取り組みが多くありますが、日系の大きな金融機関がこのような取り組みを行う事例はまだ少ないと思います。MUFGが率先して切り開き、「MUFGって面白いことをやっているね」と言っていただけるように、施策を拡大していきたいです。
また、イベントを実施するにあたり、MUFGの若手層に向けた公募を行いました。日本全国、さらには米州から等多くの応募があり、その中から若手5名にご参加いただきました。このイベントを通じて、MUFGの取り組みや出資している企業について、また東南アジアの成長マーケットの実態などに触れてもらえる機会を提供できました。今後もイベントに関わっている人だけでなく、それ以外の人々のキャリアを描く上でもワクワクする施策にしていけたらと思います。
坂本氏
MUFGは、これまで東南アジアで約2兆円規模の投資を実施しています。それだけ注力している地域であり、MODEを通じた横連携により出資先の発展を促し、新たなビジネスにも繋げていくことは極めて重要です。
例えば、これまでの与信モデルでは、特に海外個人のお客様を中心に資金提供ができないケースが多くありました。MODEの取り組みを通じ、多面的なデータを活用した新たな与信モデル開発のきっかけとなり、より多くのお客様に資金提供する手助けができればと思います。
金子氏
私も、これまで金融サービスが受けられなかった層や、本当は受けられる裏付けがあるのに従来のやり方では受けられない方に対して、きちんと金融サービスを届けていきたいです。もちろん、各国の企業ごとに打ち手を持って進めていますが、粒々の実績を一つに集めて連携させながら、後押しする取り組みとしていきたいです。そういった点においても、MODEは価値のある取り組みだと思います。
Q.MODEプロジェクトは、「出資先同士の横連携を生み出し、新しいビジネスに繋げることが目的」とおっしゃっていましたが、現段階で新たなビジネスの構想はありますか?
前田氏
ビジネス面でさまざまな構想があります。一つは我々が間に入って出資企業とパートナーバンクを繋ぐパターンです。もう一つは、我々が間に入るのは同じですが、出資企業同士を繋ぐパターンです。前者の代表としては、Grab社(※4)との協業があります。我々とパートナーバンク、Grab社との間で戦略的提携契約を結ぶことで、MUFGおよびパートナーバンクをGrab社の協働パートナーに定めています。たとえばタイでは、アユタヤ銀行の資金をもとに、Grab社のユーザーであるドライバーやフード加盟店向けに小口ローンを提供しています。このような協働をタイだけではなく、他国にも広げています。
後者のパターンでは、MUFGが支援する企業Aが海外進出を計画する際、その目的地に既にMUFGが出資している企業Bが存在すると、我々は積極的にA社とB社をつなげます。そしてB社のサポートを通じてA社が他国への進出の可能性を高めるという事例があり、今まさに動いています。
坂本氏
DS企では、外部のフィンテック企業と連携することで、新しい与信モデルを活用した資金提供の形を検討してきました。たとえば、お客様の商流や日々の売上データをAPI連携で我々に共有いただくことで、お客様の信用力を測り、与信につなげる取り組みもあります。
しかしその「新たな与信モデル」は外部企業が開発しているため、モデルの中身はブラックボックスです。外部企業の持つモデルの有用性を判断したり、ゆくゆくは与信モデル開発力を内製化したりすることを目的に、ACMD-Tという取り組みを始めました。
今回のMODEプロジェクトでは我々の出資先にお集まりいただき、どのようなデータを使って審査をしているのか聞ける場を設け、ACMD-Tのチームメンバーである金子が参加しました。
金子氏
出資先やパートナーバンクの横連携を推進していきたいという想いが根底にあり、その中でも私は、データサイエンティストとして、データやテクノロジー、AIの面での繋がりを深めていきたいと思っています。特に個人のお客様向けですと、銀行の従来的なやり方ではお貸しできない方がいたり、そもそも銀行との取引がなければその方の属性を判断できなかったりします。
その課題に対して、今まで使ってこなかったデータやAIの力を使って「こういうデータのある方にはきちんとお金をお貸しできる」と信用を広げていき、ビジネスを拡大させる。 その中で、出資先がAI与信モデルとしてどういうものを使っているのか、どんなナレッジを持っているのかという点を分析し、実用化に向けて検討していきたいと思います。
※4…Grab Holdings Limited.:東南アジアにおいて、ライドシェアやフードデリバリー等、消費者の日常生活に関わるサービスをスマートフォンアプリ上で提供している大手スーパーアプリ事業者。
さまざまなニーズに応えられるグループ力。エコシステムを築くことでプレゼンスを発揮していく
(グローバルコマーシャルバンキング企画部 企画Gr 田中 克弥)
Q.今回のMODEプロジェクトやMFF・SFFのイベントを通じて感じたMUFGの強みと課題を教えてください。
前田氏
母体が大きく、あらゆる面で影響力が強いため、多くの方々のニーズに応えられることです。また、MUFGが出資している企業は、我々が持っていない能力や技術を持っていることが多いです。テクノロジーに強い企業や個人向けデジタル金融事業者、伝統的金融機関を繋ぎ、それぞれがプレゼンスを発揮するためのプラットフォームを提供できることが、MUFGならではの強みではないでしょうか。
その一方で、規模が大きく強固なものを持っているからこそ、スピード感はスタートアップ企業等に比べると遅く、その面で期待に応えられないことがあります。細かい部分まで精査が必要になることが多く、全員に対して最善なものを提供できないこともあります。
MODEプロジェクトは、これらを一つずつ克服し、外のマーケットスピードに遅れをとらないための取り組みでもあります。今後の改善に期待し、さらに盛り上げていきたいです。
坂本氏
東南アジアのデジタル金融市場は、今後高い成長率で伸びていくことが見込まれています。DS企では、そこに我々MUFGがどのように適応していくのかを考えています。技術を持つフィンテックプレイヤーとの接点の中で、ACMD-Tの取り組みを通じて技術を理解し、内製化する取り組みを進めていきます。また、MUFG全社目線で、自社に応用できる技術の探索も続けます。
Q.今後のMODEプロジェクトの展望を教えてください。
前田氏
昨年はプロジェクトの第一弾として、イベントを開催すること、人々を繋ぐ場を作ることが目的でした。今後はBAU(Business as Usual)の主要な施策として育てていきたいと考えています。シンガポールのチームには、MODEを率先して推進してくれるローカルスタッフも加わりました。そのメンバーを中心に、今後の進め方や、実施するアクティビティを練っているところです。BAUの取り組みとして多くの人や企業を繋ぐイベントから、よりビジネスを広げるきっかけとなるイベントとして、さらにオープンにしていけたらと思います。
デジタルとビジネスの橋渡しを
(デジタルサービス企画部 グローバルデジタル戦略Gr 金子剛樹)
Q.金子さんはデータサイエンティストとして、本プロジェクトに参画された理由を教えてください。
私は2023年9月に中途入行しました。ビジネス課題をテクノロジーの言葉に翻訳する、また逆にテクノロジーのビジネスへの活かし方を考案するといった橋渡しのような役目を担いたいと考えています。そのため、IT企業やテックカンパニーではなく、事業会社のほうが面白いのではと思い、当行への入行を決めました。
本プロジェクトを通じて、パートナー企業のビジネスや、それらを支える技術等について知見を広げることができています。それらを基にMUFGに貢献できる機会は、一人のデータサイエンティストとして大変興味深いと思ったため、参画を決意しました。
Q.新たなキャリアの場として、MUFGを選んだ理由を教えてください。
以前勤務していた通信会社で与信判断に携わっており、現在の部署での業務内容と親和性があったことが理由の一つです。また、MUFG内にいる先輩からお話を伺う中で、MUFGがデジタルに本気で大々的に取り組んでいることを聞き、ビジネスサイドとデータサイエンティストが一体となり、デジタルを通じて課題を解決したい、という自分のやりたいことができるのではないかと思いました。実際、私が想像していた以上にデジタルへの取り組みは進んでおり、大変やりがいを感じています。その一方で企業規模が非常に大きいため、もっと勉強し、キャッチアップしなくてはいけないことが多いと感じています。
Profile
※所属・肩書は取材当時のものです。
三菱UFJ銀行 グローバルコマーシャルバンキング企画部 企画Gr 調査役
前田 悠樹
大学卒業後、三菱UFJ銀行に入行。これまで法人営業・モルガンスタンレーロンドンへの出向・ソリューションプロダクツ部企画担当などを経験。現在はGCB企画部にて、フィンテック向け出資を中心に、MUFGのアジア×デジタル戦略遂行に従事。
三菱UFJ銀行 グローバルコマーシャルバンキング企画部 企画Gr 調査役
田中 克弥
大学卒業後、三菱UFJ銀行に入行。これまで法人営業・投資銀行審査部・コーポレートバンキング企画などを経験。現在はGCB企画部にて当行が戦略的に出資・提携する東南アジアの商業銀行(パートナーバンク)の経営管理の他、アジア×デジタル戦略にも従事。
三菱UFJ銀行 グローバルコマーシャルバンキング企画部 企画Gr
松山 翔太朗
大学卒業後、三菱UFJ銀行に入行。半年間の法人営業経験を経て、現在はMUFGが戦略出資をする東南アジアの商業銀行(パートナーバンク)の経営管理をする部署で企画業務に従事。
三菱UFJ銀行 デジタルサービス企画部 グローバルデジタル戦略Gr 上席調査役
金子 剛樹
通信会社や外資系損害保険会社等でのデータサイエンティストの活動を経て2023年に三菱UFJ銀行に入行。現在はデジタルサービス企画部でパートナー企業が持つ機械学習を活用した与信モデルの技術評価等に従事。
三菱UFJ銀行 デジタルサービス企画部 グローバルデジタル戦略Gr 調査役
坂本 龍一
大学卒業後、三菱UFJ銀行に入行。これまで法人営業・国際企画部(現GCB企画部)などを経験。現在はデジタルサービス企画部にてGrab社とのアライアンス推進・外部フィンテック企業とのアライアンス検討等に従事。